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高松地方裁判所 平成8年(ワ)80号 判決 1996年12月26日

原告

蓮池正市

外二四四名

原告ら訴訟代理人弁護士

中坊公平

豊島時夫

大川真郎

日髙清司

岩城裕

東岡弘高

原告ら訴訟代理人(別紙原告目録番号一二四の原告については右中坊公平選任の訴訟復代理人)弁護士

伊多波重義

山﨑和友

阿佐美信義

石田正也

清水善朗

佐藤健宗

中村詩朗

水口晃

被告

豊島総合観光開発株式会社

右代表者代表取締役

松浦きよ子

被告

松浦庄助

被告両名訴訟代理人弁護士

中村有作

大枝孝之

主文

一  被告らは、原告らに対し、連帯して各金五万円及びこれらに対する平成八年三月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告らに対し、連帯して別紙物件目録(二)記載の土地上に存する別紙除去物目録記載の物件を香川県小豆郡土庄町豊島から除去せよ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告らは、昭和五二年六月以前から現在まで香川県小豆郡土庄町豊島(以下「豊島」という。)に居住している住民であり、被告松浦庄助(以下「被告松浦」という。)は、被告豊島総合観光開発株式会社(以下「被告会社」という。)の実質的経営者である。

2  (本件和解の成立)

(一) 被告会社は、昭和五〇年一二月に香川県知事に対して別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件処分地」という。)の一部で有害廃棄物処理業を行うことに関する許可を申請したため、原告らは、右廃棄物処理場の建設の差止めを求めるべく、昭和五二年六月に被告会社を相手方として高松地方裁判所昭和五二年(ワ)第一七四号及び同第二三六号の産業廃棄物処理場建設等差止請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。

(二) 被告会社は、許可を求める事業内容をみみずによる土壌改良剤化処分に変更し、昭和五三年二月一日に香川県知事から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)一四条一項に基づき、本件処分地で産業廃棄物である汚泥(製紙汚泥及び食品汚泥)、木くず及び家畜のふんについて、収集運搬業及びみみずによる土壌改良剤化処分業を行う許可を得た。

右許可には、①みみずの飼料として不適当な産業廃棄物の収集、運搬、処分は行わないこと、②豊島に搬入する産業廃棄物の最大取扱量は、みみず養殖に必要な量をこえないこと、③産業廃棄物の収集、運搬、処分に当たっては、産業廃棄物及びみみずのふんの飛散、流出防止等に必要な措置を講じ、生活環境の保全上支障を生じないようにすること、④収集、運搬、処分する産業廃棄物は、無害なものに限ること、⑤事業過程から生ずる廃棄物は、焼却する等、法令に定める基準に従って適正に処理し二次公害の生じないよう措置すること等の条件が付けられていた。

(三) 別件訴訟について、昭和五三年一〇月一九日に、原告らと被告会社及び利害関係人として加わった被告松浦との間で裁判上の和解が成立した(以下「本件和解」という。)。右和解条項中には以下のような条項が存する。

(1) 被告会社は、豊島において昭和五三年二月一日付で香川県知事から許可のあった産業廃棄物処理業を営むに当たり、豊島の生活環境及び自然環境の保全と向上を図るため、原告らに対し、廃掃法及び同法施行令、同法施行規則並びに右許可にかかる許可条項、許可条件を誠実に遵守するほか、次の措置をとることを確約する。

① 産業廃棄物処理施設から排出される排水その他右事業によって生じる排水は、一切海には流さない。

② みみずの飼料としての産業廃棄物及びみみず飼育により得られた糞土は、野積せず将来事業廃止の場合には島内に残さない。

③ 産業廃棄物の収集、運搬、処分にあたっては、著しい騒音及び振動を発生させることのないよう配慮する。

④ 産業廃棄物及び糞土を運搬するについては、産業廃棄物処理施設以外の場所で積載物の積替えをしない。被告会社は使用道路の維持管理に努める。

⑤ 施設付近の堰堤が台風豪雨等によっても崩壊、浸食されないよう、常に補強し、完全なものとする。

⑥ 施設周辺の自然環境の保全に留意し、その緑化に努める。

(2) 被告会社は、右産業廃棄物処理業について、許可期限到来までの間、産業廃棄物処理業の種類を、みみずによる土壌改良剤化処分に限定し、廃掃法一四条五項に基づく事業範囲の変更許可申請をしないことを確約する。

(3) 被告会社は、右産業廃棄物処理業についての許可期限満了後も産業廃棄物処理業を継続する場合は、その事業の種類をみみずによる土壌改良剤化処分に限定し、右事業以外の事業は営まないことを確約する。

(4) 被告会社は、将来、みみずの飼料たる産業廃棄物の供給が絶え、もしくは真摯な企業努力にもかかわらず、営業上採算がとれなくなる等特段の事由により、みみずによる土壌改良剤化処分事業が不可能となった場合に限り、原告らの代表機関と十分協議したうえ、廃掃法一四条五項に基づく事業範囲の変更許可申請をすることを確約する。

(5) 被告会社は、事業範囲の変更許可申請をする場合においても、廃掃法一二条五項一号、同法施行令六条の三、別表第三に規定するいわゆる有害産業廃棄物を取り扱う事業に変更許可申請することはしないことを確約する。

(6) 被告会社は、事業範囲を変更した場合には、変更後の産業廃棄物及び処理後の残物は野積せず、将来事業廃止の場合には島内に残さないことを確約する。

(7) 被告会社は、事業に起因して、原告らの生命、身体、財産及び生産活動に損害を与えたときは、誠意をもって損害賠償をするほか、公害発生のおそれがあり、もしくは現に公害が発生したときは、速やかに操業を一時停止し、または危害防止並びに除去の措置を講ずることを確約する。

(8) 被告松浦は、本件和解に基づく被告会社の原告らに対する義務の履行を被告会社と連帯して保証する。

3  (被告らの和解条項違反行為)

(一) (許可外の産業廃棄物の搬入、処分)

被告会社は、操業当初から本件和解条項及び廃掃法に違反し、次のとおり、みみずによる土壌改良剤化処分とは無関係の許可外の産業廃棄物を本件処分地の一部及びこれに隣接する第三者の所有地(別紙物件目録(二)記載の土地、以下「本件廃棄地」という。)に搬入して、許可条件に反する処分を行った。

(1) 被告会社は、操業当初から許可外のタイヤを搬入し、野焼きした。

(2) 被告会社は、昭和五五年ころから廃プラスチック、紙くず、金属くずの混合物であるラガーロープ(以下「ラガーロープ」という。)及び廃油等を収集、運搬して、これを本件廃棄地に搬入し、同所で野焼きしたり、埋め立てるようになった。

(3) 被告会社は、昭和五八年ころからは、自動車解体過程で発生する廃プラスチック類であるシュレッダーダスト(以下「シュレッダーダスト」という。)、ラガーロープ、廃油及び汚泥等の様々な有害廃棄物を大量に本件廃棄地に搬入し、同所でラガーロープやシュレッダーダストに廃油をかけて野焼きしたり、埋め立てるようになった。

(二) (産業廃棄物運搬による悪臭、騒音、振動の発生)

被告会社は、本件廃棄地に右のような産業廃棄物を搬入するため、定期便のフェリーに産業廃棄物を積載したダンプカーやタンクローリーを乗船させて豊島家浦港から豊島に上陸させ、七、八台もの大型のダンプカーやタンクローリーを本件廃棄地に至る幅員の狭い道路に一日に何十回となく往来させ、昭和五九年ころからは右に加えて廃棄物を運搬するための改造フェリーを運行させて、同フェリーに積載された産業廃棄物を豊島家浦港でダンプカーに積み替えて運搬し、定期便のフェリー内部や豊島家浦港及び同港と本件廃棄地を結ぶ道路に産業廃棄物を飛散させ、産業廃棄物から発生する悪臭を同所に撒き散らし、著しい騒音及び振動並びに歩行者の通行が危険な状態を発生させた。

(三) (野焼き及び埋め立てによる煤煙、ガス及び有毒物質の発生と廃棄物除去義務違反)

(1) 被告会社は前記(一)の野焼きを連日行い、その煤煙やガスは激しい悪臭を放ち、風向きによっては島内全土を覆い、原告らの住居にまで及んだ。また、被告会社が埋め立てた産業廃棄物は五〇万トンを越えるところ、右廃棄物中には重金属や有機塩素系化合物、ダイオキシン等の有害物質が大量に含まれており、これらの有害物質は、本件廃棄地直下の土壌及び地下水を汚染しているばかりでなく、周辺の海域にも漏出している。

(2) 被告会社は、右(一)のとおり本件和解条項(2)ないし(5)に反して事業範囲を変更したうえ、平成二年一一月に廃掃法違反容疑で兵庫県警の摘発を受けて事業を廃止しているので、同条項(6)により本件廃棄地に不法投棄した産業廃棄物及びその残物を除去すべき義務があり、また、右のとおり公害発生のおそれが生じているので、同条項(7)によってもこれらを除去すべき義務があるが、被告会社はこれを履行しない。なお、本件廃棄地には第三者が所有する土地も含まれるが、本件和解条項の内容に照らせば、被告らが撤去義務を負う廃棄物は被告松浦が所有する土地上に存するものに限定されないと解すべきである。

(四) (被告松浦の加功及び廃棄物除去義務違反)

被告松浦は、被告会社の実質的経営者として被告会社に右(一)ないし(三)の行為をさせた。また、被告松浦は本件和解の利害関係人として原告らに対し負担している右(三)記載の廃棄物除去義務に違反して、本件廃棄地から廃棄物を撤去しない。

4  (有害廃棄物、汚染土壌の存在)

被告らの前記3(一)及び(四)の行為により本件廃棄地に搬入された産業廃棄物は別紙図面(一)において赤色で示された範囲に、別紙図面(二)及び(三)に「廃棄物層」として表示された厚さで存在しており、その分布深度、分布面積及び体積は別表(一)のとおりである。

また、右産業廃棄物により汚染された土砂が、別紙図面(四)において赤色で示された範囲内に、別表(二)のとおりの面積及び体積で存在している。

5  (原告らの損害)

原告らは、本件和解条項に違反する右3記載の被告らの行為により、以下のような被害を受け、精神的損害を被った。原告らの右精神的損害を慰謝するために必要な金員は、原告一名当たり金五万円を下らない。

(一) (生活環境の悪化による精神的被害)

原告らは、前記3(一)のとおり被告らが連日廃棄物を野焼きしたことによって発生したガスと煙によって、鼻をつく刺激臭に悩まされ、夏も窓を開けられず、干した布団や洗濯物は煤煙で黒く汚れ、悪臭がしみ込むなどの生活被害を被り、頭痛や目の痛み、吐き気等の身体的不調を訴える者もあらわれるほど劣悪な環境下で生活することを強いられ、これにより精神的な被害を被った。また、原告らは、前記3(二)のとおり被告らが連日廃棄物を運搬したことによって発生した騒音及び振動によってかつての静穏な生活環境を破壊されたほか、ダンプカーやタンクローリーの往来のために交通の不安にさらされ、ダンプカーに満載された廃棄物から漂う悪臭により、豊島家浦港やフェリーを利用する際及び道路を通行する際に著しい不快感を被った。

(二) (自然環境破壊による精神的被害)

豊島は瀬戸内海国立公園内に存し、豊かな自然環境に恵まれた島であって、原告らが別件訴訟を提起し、本件和解を成立させたのは、豊島の自然環境と生活環境を保全するのが主たる目的であった。そして、原告らは本件和解の成立によって被告らが和解条項を遵守することで右自然環境と生活環境が保全されるものとの期待を抱き、右期待は法的に保障されることとなったにもかかわらず、被告らは本件和解条項を遵守せず、前記3(一)のとおり違法に本件廃棄地内に産業廃棄物を搬入して野焼きし、3(三)(1)及び4記載のとおり多種多様な有害物質を含む大量の産業廃棄物を本件廃棄地に蓄積させたばかりか、これを除去する義務も履行しない。右廃棄物に含まれる有毒物質は周辺海域に漏出しているところ、原告らは、いずれも豊島において居住し、周辺海域で採れた魚介類を摂取しているのであるから、右有毒物質が原告らの健康に悪影響を与えるのではないかとの点につき不安を感じており、この点について精神的被害を被っている。また、被告らの右行為の結果、豊島は「ゴミの島」「毒の島」として全国的に知られるようになり、イメージダウンによって豊島を訪れる釣客、観光客などが激減したほか、地場産業であるミカン栽培、ノリ養殖、ハマチ養殖についても豊島の名称を冠して生産物を販売することが困難になるなどの影響が現れ、原告らが豊島に対して抱いていた名誉感情を著しく傷つけられ、これによって原告らは著しい精神的損害を被った。

6  よって、原告らは、被告らに対し、本件和解(前記2(三)の(6)ないし(8)項)に基づき、被告らが本件廃棄地に搬入した産業廃棄物及び処理後の残物である汚染土壌を連帯して豊島から撤去することを求めるとともに、本件和解の不履行に基づく損害賠償請求として、原告らに対し、各金五万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日以後である平成八年三月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の各事実は認める。

3(一)  請求原因3(一)(1)の事実は否認する。タイヤは本件和解成立前の昭和五〇年ころ搬入したものであり、野焼きはしていない。同3(一)(2)の事実は否認する。同3(一)(3)の事実中、被告会社が昭和五八年ころからシュレッダーダスト、ラガーロープ、廃油及び汚泥を本件廃棄地に搬入したこと並びに同所でラガーロープに廃油をかけて野焼きし、シュレッダーダストを焼却し、汚泥を埋め立てたことは認め、その余は否認する。シュレッダーダストは炉で焼却していたもので野焼きはしていないし、シュレッダーダストは金属回収原料であって廃棄物には該当しないから、右各行為は和解条項にも許可条件にも違反していない。

(二)  請求原因3(二)の事実中、被告会社が、本件廃棄地に3(一)(3)記載の物件を搬入するため、定期便のフェリーに右各物件を積載したダンプカーやタンクローリーを乗船させて豊島家浦港から豊島に上陸させ、七、八台の大型のダンプカーやタンクローリーを本件廃棄地に至る幅員の狭い道路に往来させ、昭和五九年ころからは右に加えて改造フェリーを運行させていたことは認め、その余は否認する。

(三)  請求原因3(三)(1)の事実中、被告が本件廃棄地でラガーロープに廃油をかけ野焼きしていたこと及び本件廃棄地に埋め立てられているシュレッダーダスト等に有害物質が含まれていることは認め、野焼きが連日行われたとの事実は否認する。その余の事実は知らない。野焼きは二、三日おきに行っていたにすぎない。同3(三)(2)の事実中、なお書の部分は争い、その余は認める。

(四)  請求原因3(四)の事実中、被告松浦が本件廃棄地からシュレッダーダスト及び廃棄物を撤去していないことは認め、その余は否認する。

被告らは現在操業しておらず、少なくとも操業を一時停止しているので、請求原因2(三)(7)記載の和解条項の解釈上、廃棄物の除去義務は発生しない。また、汚染土壌が請求原因2(三)(6)記載の和解条項の処理後の残物に該当すると解することは困難であり、これに関する除去義務も発生しない。

4  請求原因4の事実は知らない。

5(一)  請求原因5(一)の事実は否認する。本件廃棄地にシュレッダーダストや産業廃棄物が残存していることは認めるが、被告会社の行為及び汚染物質によって原告らに生じた具体的な被害は明らかでないうえ、原告らの居住場所は同じではないから、居住地区が本件廃棄地から遠く離れた者について損害を認めることはいっそう困難である。

(二)  請求原因5(二)の事実は否認する。風評被害は仮にあったとしても抽象的なものにとどまるから、本件和解条項違反による損害賠償の対象とすることはできない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、請求原因3(被告らの和解条項違反行為)及び4(有害廃棄物、汚染土壌の存在)につき判断する。

1  被告会社が昭和五八年ころからシュレッダーダスト、ラガーロープ、廃油及び汚泥を本件廃棄地に搬入したこと並びに同所でラガーロープに廃油をかけて野焼きし、シュレッダーダストを焼却し、汚泥を埋め立てたこと、被告会社が本件廃棄地に右各物件を搬入するため、定期便のフェリーに右各物件を積載したダンプカーやタンクローリーを乗船させて豊島家浦港から豊島に上陸させ、七、八台の大型のダンプカーやタンクローリーを本件廃棄地に至る幅員の狭い道路に往来させ、昭和五九年ころからは右に加えて改造フェリーを運行させていたこと、本件廃棄地に埋め立てられているシュレッダーダスト等に有害物質が含まれていること、被告らが本件廃棄地から廃棄物を撤去しないことはいずれも当事者間に争いがない。

2  証拠(甲四の1ないし四、五の1、2、六の1ないし5、7ないし21、七ないし一一、一三、一四の1、2、一六、二一の1ないし6、13、二四、二五、三一、三四の1ないし23、25ないし33、35ないし99、101ないし128、130ないし140、142ないし157、159ないし200、202ないし206、208ないし245、三五ないし三八、四〇、四一、検甲一ないし一二、証人安岐登志一、原告安岐正三、被告松浦庄助)によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告会社は、本件和解成立後、昭和五五年初めころからはラガーロープを本件廃棄地に搬入するようになり、昭和五八年ころからはみみず養殖による土壌改良剤化処分業はやめて、汚泥(みみず養殖による土壌改良剤化処分に使用しないもの)、シュレッダーダスト、ラガーロープ及び廃油を本件廃棄地に搬入するようになったほか、石炭灰、紙屑、タイヤ、鉱滓、毒物の表示のある液体、廃酸及びプリント基盤等の産業廃棄物も大量に搬入していた。被告会社は、当初は右廃棄物をダンプカー等に積んで定期便のフェリーに乗船させ、豊島に搬入していたが、昭和五九年ころからは、廃油は大型トレーラーに積載して定期便のフェリーを利用して運搬し、その他の廃棄物については改造フェリーに約五〇〇トンを直接積んで豊島家浦港まで運搬したうえ、同港でショベルカーを用いて七台のダンプカー(一〇トン車)に積み替え、本件廃棄地に搬入していた。その結果、定期便のフェリー内と豊島家浦港及び同港と本件廃棄地を結ぶ道路には右廃棄物の悪臭が漂った。豊島家浦港付近には小学校や幼稚園、役場、公民館、医療機関、郵便局、農協及びフェリーの乗船券売場といった島民の生活に欠かせない公共施設が集中しているが、被告会社のダンプカー及びタンクローリーは豊島家浦港と本件廃棄地の間に存する同港付近のほぼ唯一の主要道路である幅員二メートル前後の狭い道路を頻繁に往復し、途中乱暴な運転のために積載した廃棄物を道路に飛散させたり、廃棄物の詰まったドラム缶を農業用溜池内に転落させたりしたほか、道路沿いのコンクリート壁や電柱、畑の側溝等を破壊し、騒音及び振動を生じさせ、右道路を通行する島民に危険を生じさせた。

(二)  被告会社は、搬入したシュレッダーダスト、ラガーロープ、製紙汚泥及びタイヤに灯油や廃油をかけて絶えず野焼きし、激しい煤煙及び刺激臭を発生させた。被告会社は右野焼きの燃え殼及び搬入した廃棄物を本件廃棄地内に野積みして埋め立てたが、その総重量は約五一トンにも上り、右廃棄物は別紙図面(一)に赤色で示された範囲に、同図面(二)及び(三)に「廃棄物層」として表示された厚さで存在しており、その分布深度、分布面積及び体積は別表(一)のとおりとなっている。また、被告会社が廃棄物を混合して雑然と埋め立てたため、その多くは腐敗していて、鉛、カドミウム、水銀、砒素、PCB、有機塩素系化合物等の有害物質によってその八〇パーセント以上が基準値を越えて汚染されており、さらに右有害物質は廃棄物直下の土壌をも土壌対策指針値を越えて汚染している。右のとおり基準値を越えて汚染された土壌の分布範囲は別紙図面(四)のとおりであり、その面積及び体積は別表(二)のとおりである。また、本件廃棄地の地表に存する水及び地下水も右廃棄物に含まれる有害物質によって環境基準値を越えて汚染されており、その一部は海域にも流出している。

(三)  被告会社はもともと被告松浦が代表者として経営する会社であったが、被告松浦が昭和五二年ころから立て続けに傷害事件、暴行事件等を起こしたため、同被告は産業廃棄物処理業の許可を得やすくする目的で昭和五三年三月ころ名目上被告会社の代表者を同被告の妻に変更した。しかし、実際に経営の中心となっていたのは被告松浦であった。

(四)  被告松浦は平成二年一一月に廃掃法違反で兵庫県警に摘発され、被告会社はそのころ事実上営業を廃止した。

三 右二で認定した事実によれば、被告らが本件和解条項の(1)冒頭、(1)の①、③及び④、(3)、(5)ないし(8)に違反したことは明らかであるから、被告らは右和解条項違反により原告らに生じた損害を連帯して賠償すべき責任を負うとともに、和解条項(6)ないし(8)に基づき、本件廃棄地内に堆積された廃棄物及び有害物質により汚染された土壌を豊島外へ撤去すべき義務を連帯して負担すべきである。

1  ところで、被告らは、シュレッダーダストは金属回収原料であって被告会社はこれを有償で買い入れていたから、右は廃棄物に該当せず、シュレッダーダストの搬入及び焼却は本件和解条項にも許可条件にも違反しない旨主張し、これに沿う証拠として乙一号証の1ないし13を提出する。しかしながら、前記認定事実及び証拠(甲四の2、五の1、六の12、14、16、三二、四三、四四、四六の1、2、四七、被告松浦本人)によれば、シュレッターダストは一般的には廃棄物であると解されていること、被告会社は排出業者との間でトン当たり二〇〇〇円の代金を受け取ってシュレッダーダストを引き取り、買取代金として三〇〇円を支払う旨の契約を締結していたが、結局、右は被告会社が一七〇〇円でシュレッダーダストを収集し処分する旨の契約に外ならず、このような契約は廃掃法上排出業者が被告会社に廃棄物の処理を委託する契約と解されること、被告松浦は、平成二年一二月に直島吉野石膏株式会社の排出する産業廃棄物である石炭灰を収集、運搬し処分する際にも、これを産業廃棄物でなく有価物であるかのように見せかけるために、右と同様に引取り金額よりも少額の対価を支払っている旨の偽造契約書を従業員に作らせていること、製紙工場の排出する産業廃棄物であるラガーロープには金属製のワイヤーが含まれており、被告会社は右ワイヤーに巻きついたプラスチック部分を野焼きで取り除いた後、残ったワイヤーを金属屑として売却していたが、被告松浦は、本件訴訟と同一の産業廃棄物の不法投棄に関する刑事手続に関して録取された供述調書において、右金属の売却による収入がわずかなものであり、あくまでも産業廃棄物処理業の副産物にすぎないことを自認していること、被告松浦は、香川県に対し昭和六一年六月に産業廃棄物処理業の事業範囲を廃プラスチック、金属、ガラス、陶磁器くず及び建設廃材等に変更することに関する申請をしており、シュレッダーダストの処理について事業範囲の変更の手続が必要であることは認識していたこと、本件廃棄地に放置されているシュレッダーダストの金属含有量は約0.8ないし7.3パーセントにすぎず、金属回収業としては到底採算の合わない分量であること、本件廃棄地に放置されている廃棄物の半分以上がシュレッダーダストであるところ、その分量は膨大なものであり、それらは汚泥その他の廃棄物と混ざりあって放置され、腐敗していることの各事実が認められるところ、右各事実に照らせば、被告会社がシュレッダーダストから取り出した金属を他に有償で売却していた事実があっても、それは、シュレッダーダストが金属回収原料であって廃棄物に該当しないと主張するための単なる脱法の口実として行われていたにすぎないというべきであって、この点に関する被告らの主張にはおよそ理由がない。

2  次に、被告らは、本件和解条項の解釈に関して、被告らは現在操業しておらず、少なくとも操業を一時停止しているので、廃棄物の除去義務は発生しない旨主張する。しかしながら、本件和解条項が無許可で有害な廃棄物を搬入することを禁止する趣旨であることは同条項の(1)ないし(5)から明らかであり、同条項の(1)②及び(6)は、無許可で廃棄物の搬入がなされないこと及び有害廃棄物は搬入されないことを当然の前提として、適法に許可を受けて搬入した産業廃棄物であってもこれらを野積みしないこと及び事業廃止の場合には右廃棄物を処理後の残物とともに豊島の外に搬出することを被告らの義務とする趣旨であると解されるから、これら条項の全体的趣旨に鑑みれば、右和解条項(6)ないし(8)は、被告らに対し、無許可で搬入された有害廃棄物についても豊島の外に撤去すべき義務を負わせる趣旨のものと解するのが当然であって、同(7)が「速やかに操業を一時停止し、または危害防止並びに除去の措置を講ずることを確約する」との文言を用いていることのみから、操業停止と危害除去の措置が選択的な関係に立ち、操業を停止した以上危害除去をしなくてもよいと解することはできない。

3  さらに、被告らは、汚染土壌が本件和解条項(6)にいう処理後の残物に該当すると解することは困難であると主張するが、本件和解が豊島の生活環境及び自然環境の保全を図ることを目的としていること及び右和解条項(7)が公害の発生またはそのおそれがある場合にその危害の除去を定めていることに照らして、右条項は被告らが行う廃棄物処理業に伴い豊島に持ち込まれた産業廃棄物及び処理に伴って発生させた有害物質は、事業の廃止とともに全て豊島外へ搬出させる趣旨のものであると解されるから、被告らが本件廃棄地に有害廃棄物を持ち込むことにより副次的に発生させた汚染土壌は同条項にいう処理後の残物に該当するというべきであり、被告らの主張は失当である。なお、本件廃棄地には第三者が所有する土地も含まれるが、本件和解が右のような趣旨のものであることに照らせば、被告らが撤去義務を負う廃棄物は被告松浦が所有する土地上に存するものに限定されないと解すべきである。

四  そこで、次に、請求原因5(原告らの損害)につき判断する。

被告らが本件和解条項に違反して連日廃棄物を野焼きしたこと、これによって煤煙と刺激臭のあるガスを発生させたこと、被告らが連日ダンプカー等で廃棄物を運搬したことにより騒音及び振動が発生し、狭い道路に交通の危険が発生し、フェリー内、豊島家浦港及び同港と本件廃棄地を結ぶ道路に悪臭が漂ったこと、本件廃棄地に多種多様な有害物質を含む大量の産業廃棄物が堆積されており、右廃棄物に含まれる有毒物質が周辺海域に漏出していることは前記二で認定したとおりであり、証拠(甲一、三、一七、二一の1ないし13、二四、二五、三一、三四の1ないし23、25ないし33、35ないし99、101ないし128、130ないし140、142ないし157、159ないし200、202ないし206、208ないし245、三五ないし三八、四〇、四一、検甲五ないし一二、証人安岐登志一、原告安岐正三)によれば、豊島は瀬戸内海国立公園内に存し、豊かな自然環境に恵まれた島であって、原告らが別件訴訟を提起して本件和解を成立させたのは、豊島の自然環境と生活環境を保全するのが主たる目的であったこと、被告らによる本件の産業廃棄物不法投棄問題は新聞やテレビ等のマスコミの報道するところとなり、豊島は有害産業廃棄物の投棄された場所として全国的に有名となり、このため豊島ではハマチ養殖業を廃業せざるをえなくなったり、ミカンの販売の際に豊島の名を冠して売ることを断念せざるをえなくなった業者も出たこと、以上の事実により原告らは程度の差はあるもののいずれも精神的損害を被っていること(原告毎の具体的被害内容は別紙被害状況一覧表のとおりである。)が認められる。

ところで、被告松浦本人尋問の結果によれば、被告松浦は、本件和解を締結した当時、みみずの養殖業を将来にわたって行っていく意思はなく、和解の趣旨とは全く相いれない有害産業廃棄物処理業を行う意向があったのに、これを秘して、真摯に履行するつもりもない本件和解を締結したものであることが認められるところ、原告らが本件和解を締結した意図が前記のとおり豊島の自然環境と生活環境を保全するところにあったこと、被告らは、昭和五五年から、平成二年一一月に廃掃法違反で兵庫県警の摘発を受けて事実上事業を廃止するまで連日のように和解条項違反行為を繰り返していたこと、被告らの本件和解条項違反行為の結果、約五一万トンという膨大な有害産業廃棄物が豊島に放置されることとなり、被告らは自らこれを撤去する意思も能力もないことに照らせば、被告らの右和解条項違反行為は債務不履行としては異例なほど態様が悪質であるというべきであり、その結果、個々の原告らについて別紙被害状況一覧表のとおり悪臭、騒音、振動、煙害、交通の危険、健康不安、名誉感情の毀損等による種々の精神的損害が発生しているのであるから、これらの事情を勘案すれば、各原告の精神的損害を慰謝するために必要な金員は少なくとも五万円を下ることはないと認められる。

五  以上の次第で、原告らの請求にはいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山脇正道 裁判官橋本都月 裁判官佐藤正信)

別紙物件目録(一)(二)<省略>

別紙図面(一)〜(五)<省略>

別紙被害状況一覧表<省略>

別紙除去物目録

1 別紙図面(一)記載の赤色の線で囲まれた範囲内に存する旧地山の上部に堆積したシュレッダーダスト、鉱滓及び燃え殼等の産業廃棄物であって、同図面(二)及び(三)の各基準線における地質断面において廃棄物層として表示された産業廃棄物。

ただし、その分布深度、分布面積及び体積は別表(一)記載のとおり。

2 別紙図面(四)記載の赤色の線で囲まれた範囲内に存する旧地山の表層の土砂。ただし、その分布面積と体積は別表(二)記載のとおり。

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